畳に転がった空の徳利が、アビの腕に当たった。
すうすうと優雅に寝息を立てている元閥を酒に侵された頭で理解し、頭を抱き寄せる。
己の腕に頭を乗せ、体を丸めるような格好の元閥に無造作に脱ぎ散らかされていた着物をかけてやれば小さく身動ぎし、アビにすり寄って来た。
放三郎に江戸を守れと言われたものの特にすることもなく、ただ酒を飲んでいた二人は明け方になってようやく眠りについたのだ。
アビの腕を枕代わりにしていた元閥は、とても小さな声で名をよんだ。
起きたのかと顔を覗き込めば、先程と変わらぬ寝息を立てているではないか。
寝言だと理解し、アビは再び瞳を閉じた。
起きたらまた酒を飲むであろう元閥に備え。
その額に、極上の接吻けをしながら。
終
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