こびりついて、離れない。
妖夷に拐かされた姉の姿。
守れなかった、愚かな己。
そして俺は――今日も目覚める。
「―――っ!!」
暗闇に響く、浅い、早い呼吸。アビは額に浮かんだ汗を乱暴に拭い、一つ息を吐いた。
ここ――前島聖天なる怪しげな神社で寝起きするようになり、しばらくが経った。だがどれだけ日が流れても、決して見ない日がない、あの日の夢。
為す術無かった、あの日。
「――アビ」
ふいに名を呼ばれ、顔を上げた。心配そうな表情でこちらを見ていたのは、この神社の神主。
―――姉に、よく、似ていた。
男だと言うのに、何故我が姉に似ているのか。アビはそれが不思議でならなかった。
「…すまない、起こしてしまったか」
「構わないよ。…また夢かい?」
頷きで返す。とたんギュッと頭を抱き締められ、背が固まった。
優しい、母のような、父のような、――姉のような、抱擁。
「大丈夫。…大丈夫」
アビは、静かにその背を抱き寄せる。
神主はきっと、己の頬を伝うものを、見ない振りをしてくれるから。
…読みようによっては元アビ?(汗
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